『エロスの原風景』

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『エロスの原風景 江戸時代〜昭和50年代後半のエロ出版史』/松沢呉一(ポット出版)

エロ本は遠からず消えると言っていい。そんな時代だからこそ、こんな本を出す意義もあるだろう──(「はじめに」より)
エロ本173冊! フルカラー図版354点収録!!
稀代のエロ本蒐集家・松沢呉一による日本出版史の裏街道を辿る男子必携のエロ本ガイド!!

 ポット出版さんからいただきました。
 江戸時代から綿々と続きながら、文化史的には黙殺されてきた「エロ本」の歴史を、豊富かつ貴重な図版とテキストで紹介する本です。

 いやぁ、面白かった〜!
 まず、とにかく「エロ本」をキーワードに、江戸時代の遊郭ガイドから戦後のカストリ雑誌、おフランスの美麗なヴィテージ・ヌード絵葉書から、自販機で売られていた即物的なエロ本まで、紹介されている書籍の、時代やジャンルの幅広さがスゴい。
 加えて、それを解説するテキストが面白い。風俗産業の変遷や印刷技術の発展と絡めた、硬派な論考がされるかと思えば、ユーモアたっぷりの語り口もあり(読んでいて何度か噴き出しました)、面白いわ勉強になるわ、もう夢中で読んじゃいました。
 でも、何がスゴいって、これらが全て「一次資料」によるものだってことだよな〜。
 こういうことを、孫引きでアレコレ書く人は多い(私も他人のことは言えません)だろうけれど、全て自分で蒐集されているということは、ホント、もっと衆目を集めてしかるべき偉業だと思います。
 私も見習わなくちゃ。
 現在、『日本のゲイ・エロティック・アート vol.3』の作業中(牛歩ですけど……)なので、ピシッと襟を正す気持ちにさせられました。

 さて、ゲイ関係もちゃんと、「ホモアルバム」という一章が入ってます。ゲイ雑誌誕生前夜、およびその黎明期に、通信販売などで販売されていたエロ写真の紹介。
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 こういう写真を撮っていた人では、「大阪のおっちゃん」という人が有名なんですが(ゲイアートの家さんが、まとまった数を所蔵・保管なさっています)、このジャンルのものは、ゲイ雑誌上ですら殆ど紹介されたことがないので、これは貴重。
 因みに、こうして販売されていたプリントには、男のヌードや絡みの写真だけではなく、男絵の複写プリントも存在していたんですが、それもしっかり、大川辰次と三島剛の二点が、この本には掲載されています。
 余談ですけど、掲載されている三島剛のプリントは、実は私も同じものを持っているので、ちょっと嬉しくなったり(笑)。
 そして実は、著者の松沢呉一さんは、私にとっての恩人でもあります。
 松沢さんなくしては、私は『日本のゲイ・エロティック・アート』シリーズを、出版することはできなかったでしょう。そこいらへんの経緯は、前述の「ホモアルバム」の章に書かれているので、ぜひご一読あれ。
 ご本人は、さらりと謙遜して書かれていますけど、ホント大恩人ですよ。私個人のみならず、日本のゲイ文化史に興味を持つ人、全てにとって。
 ゲイ・エロティック・アート絡みでは、『日本のゲイ・エロティック・アート vol.1』で取り上げた、小田利美の描いたノンケ向けカラー・イラストが、一点だけですけど掲載されているのも嬉しいところ。ただ、「山田利美」と誤植されてるのが……ポットさん、しっかりして〜!

 個人的な趣味では、その小田利美も参加していた、「創文社グループ ”ニセモノ”だから持ち得た特異な魅力」の、キッチュさがたまりませんでした。
 陽気でカラフルな表紙といい、正気を疑うような珍奇なヌード写真といい、もう、ステキすぎ! 古書市で『奇抜雑誌』(ってゆータイトルの雑誌を出していたんです)を見かけたら、思わず買っちゃいそう(笑)。
 イラスト関係だと、「カストリ雑誌 敗戦直後の日本に咲いた徒花」が良かったな〜。
 淫靡でイカガワシイ雰囲気なんだけど、でもオシャレでもある、表紙画像の数々がステキ。竹中英太郎や水島爾保布なんかを思わせる絵があるかと思えば、マティスもどきやタマラ・ド・レンピッカもどきまであったり。
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 テキスト方面では、「吉原細見 江戸時代に生まれた風俗誌の原型」や「オッパイ小僧 日本初の巨乳アイドル・川口初子」なんかが、特に興味深かった。因みに、学究的に「ふむふむ」と読みながら、その語り口に、つい噴き出してしまったのも、この二章だったりします(笑)。

 そんなこんなで、実に面白く、しかも「他に類がない」ことは間違いなしの本なので、皆様、ぜひお買い求めあれ。
 とゆーのも、この本に対する唯一の不満が、「もっと読みたい!」ってことでありまして、まだまだ未収録原稿(および未紹介コレクション)はあるようなので、これが売れれば続刊もされて、私の「もっと読みたい!」欲も満たされるわけで(笑)。
『エロスの原風景』(amazon.co.jp)
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 著者の松沢呉一さんのブログ(『エロスの原風景』関係のコンテンツ豊富、および最近のエントリーでは、出版における部数と印税や、書籍の価格などに関する記事が、実に興味深いのでオススメです)はこちら