往年のゲイ受け女優、三本立て

 近所の店で、20世紀FOXスタジオ・クラシックス・シリーズDVDが半額だったので、欲しかったんだけど買い逃がしていた、『遥かなるアルゼンチン』『残酷な記念日』『女はそれを我慢できない』の三枚を買ってきました。
 それぞれ順番に、カルメン・ミランダ、ベティ・デイヴィス、ジェーン・マンスフィールドがお目当てという、我ながらゲイゲイしい、それも年喰ったオカマ好みのラインナップです(笑)。
Harukanaru『遥かなるアルゼンチン』(1940)アーヴィング・カミングス
“Down Argentine Way” (1940) Irving Cummings
 アルゼンチンの牧場の二枚目御曹司と、可愛いアメリカ娘のラブ・ロマンスを描いた、ミュージカル・ラブ・コメディ。まあ、他愛のない話ではあるんですが、全編を覆う陽気なノリが何ともゴキゲンで、見終わった後は予定調和の多幸感で満たされる、上出来の佳品でした。
 歌と踊りも存分に楽しめて、特に、舞台の殆どがアルゼンチンというせいもあり、いかにもアメリカナイズされたラウンジ調のラテン音楽の数々が楽しめるのは、モンド音楽好きとしても嬉しいポイント。
 あと、黒人二人組(ニコラス兄弟というらしい)のタップダンスがすごい。最近のミュージカル映画だと、どうしてもカメラワークやカット割りのダイナミズムを重視した、MTVっぽい見せ方が多くて、それはそれで好きなんだけど、反面、踊り自体をあまり楽しめない不満感が残ったりして、例えば、バズ・ラーマンの『ムーラン・ルージュ』のタンゴの群舞とか、その好例だった。でも、今回のタップ・シーンは、いかにもな名人芸を、舞台さながらにじっくり見せてくれて、そのワザのすごさに圧倒されて目が釘付けになり、終わった後は思わず拍手したくなる……なんていう、クラシック・ミュージカル映画ならではの醍醐味を、しっかり味わえました。
 お目当てのカルメン・ミランダは、映画の冒頭からいきなりアップで「♪アパパパパ〜」と歌い出したもんだから、私はもう大喜び。一緒に見ていた相棒は、それまでカルメン・ミランダのことは知らなかったんですが、彼女の歌の楽しさと顔の賑やかさに「笠置シヅ子みたいだ」と、やはり大喜び(笑)。
 この映画では、カルメン・ミランダは「ブラジルのスターがアルゼンチンに来てショーに出ている」という本人役なので、ストーリーには直接絡んでこないし、演技を見せるシーンとかはないのが残念ではありますが、でも歌はしっかり三曲ほど披露してくれますし、もちろん彼女の看板の、あのドラァグ・クイーンもビックリな頭飾りと衣装(……どんな感じかって? こんな感じです)も楽しませてくれます。
『遥かなるアルゼンチン』amazon.co.jp
 ついでに余談。
 さっき笠置シヅ子の名前を出しましたが、この映画の主題歌の”Down Argentine Way”という曲、その笠置シヅ子が「美わしのアルゼンチナ」という題名で歌ってます。このCDで聴けます。因みにこのCD、マジで名盤です。私が持っているのは旧盤ですが、もう何度聴いたことか。しかしこのリイシュー盤、旧盤と比べて二曲増えてるって……そのためだけに買うかどうか、現在思案中(笑)。でも、持ってない人には、同じシリーズのこっちも併せて、激オススメですぞ。
Zankokuna『残酷な記念日』(1968)ロイ・ウォード・ベイカー
“The Anniversary” (1968) Roy Ward Baker
 毎年、母親と亡父の結婚記念日に、家に集まる習慣のある一族。しかし、実は息子たちは、自分たちを支配している母親から、逃れたいと思っている。今年も、末の弟が連れてきた婚約者が、さっそく底意地の悪い母親の毒牙にかかり、さらに上の兄の秘密も暴かれ、パーティーは混迷してドロドロに……という内容。
 お目当てのベティ・デイヴィスは、もちろん母親役。名作『何がジェーンに起こったか?』以来ハマり役の、奇っ怪で不気味なオバサン(もしくはオバアサン)役ですが、今回も期待に違わず、出で立ちからして、キラキラのお洋服+片目に眼帯というトゥー・マッチさ(何と眼帯のお色直しまである!)で熱演。
 加えて性格も、徹頭徹尾マジに邪悪でビッチ。相手の劣等感を探り当ててはネチネチいびったり、弱みを見せるような素振りをして、実は罠を仕掛けていたり、息子の婚約者に「警察が来たら二階に隠れていてね、売春宿と間違われると困るから」と言い放ったり、下着女装の趣味があるデブ息子が風呂に入ろうとすると、「そういえば、風呂に入る太った女の絵を描くフランスの画家がいたでしょ、何て名前だっけ?」と嫌味をとばしたり……と、もうステキ過ぎ(笑)!
 元が舞台劇らしく、映画的なダイナミズム等はあまりないですが、会話の応酬でモノガタリの輪郭が次第に明らかになっていく面白さとか、家族モノなのに人情味なんて微塵もないドライさとか、いかにもイギリスらしいシニカルなブラック・ユーモアとか、お楽しみどころも多し。オカマのツボを押すという点では、かなりポイント高い内容でした。
『残酷な記念日』amazon.co.jp
 とはいえ、「おっかないベティ・デイヴィス」未体験の人だったら、やはりまずは『何がジェーンに起こったか?』から見て欲しいですな。この映画、ゲイ映画の名作『トーチソング・トリロジー』の中で、ドラァグ・ショーのネタとして使われていたし、最近だと『蝋人形の館』でも、劇中の映画館で上映されてましたね。
 あと、内容はオカマウケする「女優の戦いモノ」で、しかも映画としてもマジで名作の『イヴの総て』も必見。これ、日本のオカマ好き映画の定番、『Wの悲劇』の元ネタです。ベット・デイヴィスが三田佳子、アン・バクスターが薬師丸ひろ子。
 この二つをクリアしてベティ・デイヴィスのファンになったら、あとは『何がジェーンに…』の変奏的なビッチ・サスペンス(……って、そんなジャンルね〜よ)『ふるえて眠れ』とか、不気味な乳母役で、しかも少女時代のパメラ・フランクリンも出ているので、「ホラー好きにはダブルでお得!」な『妖婆の家』とか、ホラーなんだけど、実は一番こわいのは、「祖母/ベット・デイヴィス、父/オリバー・リード、母/カレン・ブラック」という、主人公一家の面々なんじゃないかっつー『家』とか、まだまだお楽しみは沢山ありますよ(笑)。
Onnahasorewo『女はそれを我慢できない』(1956)フランク・タシュリン
“The Girl Can’t Help It” (1956) Frank Tashlin
 落ちぶれた芸能エージェントに、ヤクザのボスが「俺の情婦をスターにしろ!」と押しつけてくる。最初は乗り気じゃなかったエージェントも、いざ彼女に会うと、そのセクシーさにクラクラ。どのくらいセクシーかというと、彼女が道を歩くだけで、余りのセクシーさに氷屋の氷が溶け始め、牛乳配達のミルクが沸騰し、オッサンのメガネにヒビが入るのだ(笑)! でも、実は彼女自身はスターになんかなりたくなくて、一番好きなのは家事全般だった……ってなお話し。
 コメディ仕立ての音楽映画で、制作当時に黎明期だったロックンロールのスターたち(……っても、私はそこいらへんは疎いので、名前を知ってるのはプラターズくらいで、あと、ロックンロールじゃないジュリー・ロンドン)の、ライブシーンがふんだんに盛り込まれて、これまた楽しくゴキゲンな内容。
 音楽関係では、グループ名は判らないけど、主人公たちが借りに行ったスタジオで演奏していた連中や、ライバルのジューク・ボックス会社のオーディションで演奏していた連中のパフォーマンスが印象に残ります。ジュリー・ロンドンは、主人公が彼女の元マネという設定。彼女を忘れられない主人公の前に、妄想となって現れて、彼女自身のヒット曲”Cry Me A River”を、じっくり聴かせてくれます。
 お目当てのジェーン・マンスフィールドは……いやぁん、めちゃめちゃキュートやんけ!
 前に『よろめき休暇』で彼女を見たときは、いかにもマリリン・モンローのばったもんって感じで、しかも本当にどーでもいいような役で、何かちょっと気の毒な気すらしたし、愛夫ミッキー・ハージティと共演したソード&サンダル映画の”The Loves of Hercules (a.k.a. Hercules and the Hydra)”(伊語原題”Gli Amori di Ercole”)になると、赤いカツラと黒いカツラで「良いジェーン・マンスフィールド/悪いジェーン・マンスフィールド」を演じ分けている(笑)のが、もうネタとしか思えなかったんですが、今回はマジで魅力が大爆発! お色気と可愛さと、自慢の巨大バストを振り回して大活躍!
 まあ、演技力という点では、ベッドに突っ伏して泣くシーンとか、ちょっと「う……(汗)」って感じではありましたが(笑)、そんなのも、「音痴な彼女が唯一レコード・デビューする方法」として、刑務所の歌を録音することになり、マイクの前でサイレン代わりに「♪きゃぁ〜お!」と叫ぶ可愛さの前では、もう帳消し! いや、ジェーン、あんたこの映画では、ちゃんとスターオーラあるじゃん!
 今回つくづく感じたことは、ジェーン・マンスフィールドの「セクシーさ」って、例え彼女が当時のセックス・シンボルであったとはいえ、それは決して自然なものではなく、世の中で「セクシーだ」とされている要素を誇張したものなんですな。それが余りにもトゥー・マッチなので、彼女の存在は、「セクシーな女優」ではなく「セクシーな女優のパロディ」に見える。最近で言うと、叶姉妹なんかもそうですな。これは。基本的に「女のパロディ」であるドラァグ・クイーンと同じで、だからそーゆーテイストを好むゲイにも受ける。
 で、今回の映画は、そんな彼女のトゥー・マッチさが話の軸を担い、更にそれが前述したようなトゥー・マッチな演出で描かれるので、彼女という存在と映画という作品が、全くブレずに完璧に重なり合い、作品として理想的な融合を遂げているという感じ。コメディとしても、少々の洒落っ気はあるものの、決して「小粋」にはならないという、ユーモアのセンスがちょいと泥臭いあたりも、成功の一因。
 う〜ん、こうなると同じ監督と再タッグを組んで、評判も良い『ロック・ハンターはそれを我慢できるか?』を見たくなるなぁ。日本盤、出ないかな〜。
『女はそれを我慢できない』amazon.co.jp
 余談。
 この映画からタイトルを借用した歌謡曲で、大信田礼子の「女はそれをがまんできない」ってゆー歌があるんですが、これまたオカマ心をくすぐるセクシー歌謡の逸品だったりします。イカしたビートに乗せて、ちょいドス効き気味なハスキー声で「好きなひ〜とじゃ、なくちゃいや〜ン♪」って歌うの(笑)。このCDで聴けます。これ、このテが好きな人だったら捨て曲なしの好コンピレなんで、よろしかったらついでにオススメ。