帰朝報告〜日誌風(3)

帰朝報告、その4。
3月3日
 九時過ぎに目が覚める。誰もいない朝のギャラリーは、昨夜のにぎわいがうそのよう。
 オリヴィエが十一時頃に来ると言っていたので、待っていのだたが、一時になっても来ない。テーブルにケイタイの番号のメモを残して、テキトーに出かけることにする。
 因みに、このギャラリーは予約制なので、誰もいなくても無問題。
 近くのカフェで、クロック・ムッシュとショコラでブランチ。どちらもすこぶる美味しい。
 今回、パリでの用事を終えた後で、どこか別の場所に寄ってから、帰国したいと思っているので、安チケットを探しに行くことにする。……が、土曜日の午後なので、オフィスは休みだった。
 チケット探しはあきらめて、沢辺さんに電話してみる。サン・ジェルマンのあたりで、みんなで昼ゴハンの最中だった。私はポンピドー。オデオンで待ち合わせることにする。
 オデオンで、沢辺さん、那須さん、中山さん、ふみちゃん、みずきちゃんと合流。みんなでリュクサンブール公園を散歩しに行く。
 公園のカフェでお茶。那須さんと「去年、アップリンクでイベントしたときは、まさかこーゆー面子でパリでお茶するなんて、想像もしてなかったよね〜」とシミジミ。あちこちのテーブルで、客が残した角砂糖を、鳥が包み紙ごと丸飲みしていた。
 買い物がてら、サン・ジェルマンをブラブラ。ロウソク専門店が面白かった。見るからに高級そうなパティスリーで、沢辺さんがエクレアを買って、みんなにふるまってくれる。似たようなことをするオノボリさんは多いらしく、近くのゴミ箱には、同店の空き箱が山のように(笑)。
 別に用事があった中山さん、買い物に行ったふみちゃんと分かれて、沢辺さん、那須さん、みずきちゃんと一緒に、カフェでお茶。窓際の席に座ってひょっと外をみたら、斜め向かいに、昨日と一昨日、二日連続でお誘いをパスしてしまった、例のベア&ウルフバーがあったのでビックリ。
 夕飯は、以前パリに住んでいた私の友達がオススメしてくれた、イタリアン・レストランへ行くことにする。ポンピドーで中山さん、ふみちゃんと待ち合わせて、みんなでゴー。
 レストランは、リーズナブル&美味で大好評。フランス語のメニューの解読は、もっぱら中山さんにお任せ。デザートに何を頼むかで盛り上がる。
 23時近くなってギャラリーに戻ると、オリヴィエがいた。案の定、バーで盛り上がりすぎて、15時頃まで寝ていたらしい。
 今夜、ゲイのクラブ・イベントに行こうと誘われる。でも、出かけるにはまだ早いので、しばらくお喋り。この頃になると、オリヴィエのフランス語訛りの英語にもだいぶ慣れて、聞き取りもそんなに苦ではなくなってきた。
 しかし、オリヴィエはとにかく早口でマシンガン・トーク。加えて知識や興味の幅がとんでもなく広く、しかも連想ゲームのように話題が拡がっていくので、こっちもかなり集中力が必要。日本の文化や歴史にも詳しく、ルネッサンスやバロック絵画の話をしていたはずが、二十分後にはいつの間にか、部落問題やらアイヌ民族やら、仏教や神道や三種の神器の話になっていたりする(笑)。そんな具合で二時間ほど喋っていたら、夜遊びに出かける前に疲れてしまった(笑)。
「そろそろ出かけよう」と、オリヴィエが着替える。着替えるといっても、フツーの服ではない。ナチスの将校のような(実際は、ロシア軍の軍服らしいが)コスプレ姿だ。これが、オリヴィエのゲイ・コミュニティでのトレードマークらしい。
 軍服姿のオリヴィエと、歩いてクラブに向かう。Bains Douches というクラブで行われた、“Yes Sir!” というパーティ。マッスル&野郎寄りのベア・パーティーだそうな。
 クラブの前は、既に入場待ちの行列が。私たちはインビテーションなので、並ばずに入れた。クロークで上着を預け、中に入る。広さは、西麻布のYellowくらいかな。フロアもラウンジも、坊主またはスキンヘッド&ヒゲのマッチョだらけ。半分くらいは上半身裸。長髪とか細身とかもいるけど、少数派。見渡したところ、東洋系は私だけ。
 しばらくオリヴィエと一緒にラウンジにいて、次々と紹介される人に挨拶とかしていたのだが、それも一段落ついたようなので、フロアへ踊りに行く。マッチョはマッチョでも、やはり人種の違いか、日本で見るそれとは、筋肉の大きさが圧倒的に違う。
 ファッションはおしなべて今風で、ボトムはローライズのジーンズやカーゴパンツ。上半身裸を除けば、このまま昼間に外を歩いていても、全く違和感がなさそう。強いて言えば、黒のトップスと迷彩柄のボトムが目立つくらい。たまにレザーキャップとかボディーハーネスとかもいたけど、正直言って浮いている感じ。何かの主張としてのゲイ・ファッションというスタイルは、既に過去のものなのだろう。
 しかし、やっぱり一番浮いていたのは、オリヴィエの軍服姿だった(笑)。もっとも自分も、服装は黒T&カーゴだけど、人種や体格という点で浮いていただろうなぁ(笑)。
 フロアで、昨夜のゲイ・テレビ局のインタビュアーと再会。今日は上半身裸。すっげーいい身体のうえに、両肩と背中にとてもきれいな和風のタトゥーが。「ホレホレ」と自慢してきたから、それに乗じてあちこち触らせて貰う。他にも何人か、昨日のパーティーで会った人と挨拶したり、ファンだという人と話したり。音楽が轟音なので、フロアでは自然と上半身を寄せ合って、肩に手を掛け合ったりして、耳元で大声で怒鳴るように話すことになる。だから、しばらく話していると、相手の息で耳がベタベタしてきたり(笑)。
 フロアがどんどん混んでくる。ラウンジも併せて、三百人くらいいたんじゃなかろうか。この頃になると、東洋系も三人くらい見掛けた。女性も数人。同伴なら入れるミックス形式なのかな? 途中で上を脱ぎだす連中も多いので、いつの間にか裸の割合が三分の二くらいに。混んだフロアを誰かが通り抜けようとすると、必然的に肌が触れ合う。毛深い人だと「ふさっ」とか「ざらっ」とした感触、毛の薄い人だと「ぺとっ」とか「ぬるっ」とか。
 フロアには汗の臭いが充満し、苦手な人は嫌なんだろうけど、私は好きだから気分もアガる。筋肉やら体毛やらタトゥーやらボディーピアスやら、目の保養もタップリ。知り合いやファンで、カッコよかったりカワイかったりする子には、もう遠慮なくハグ。
 音楽は、あれは2ステップなのかな、ブレイクビーツの作り出すグルーヴが気持ちよくて、久々に赤い靴シンドローム(踊り出したらとまらなくなっちゃうという、私のビョーキ)が発症。なかなか好みのプレイをするDJさんでした。
 オリヴィエは途中で帰ったけど、私は居残り。けっきょくそのまま、朝の五時まで踊ってました。
 歩いてギャラリーに帰り、バスを使う。
 児雷也画伯に「パリからメールくれ」と頼まれていたので、オリヴィエのPCを借りて、ウェブメールを出す。フランス語用のキーボードだから、ちょっと使いにくい。オマケに、日本語変換ができないので、ローマ字表記。
 一服して就寝。踊りすぎで、明日、足が痛くならないか、ちょっと不安。オッサンは辛いね(笑)。
(続く)