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「映画秘宝」5月号で未公開映画を7本紹介

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 3月20日発売の雑誌「映画秘宝」4月号の特集「この映画を観ろ! Best 70!!」に、未公開映画7本の紹介記事を書きました。
 この特集、色々な方が色々な映画を推薦していて、もう知らない映画ばかりなので「ほうほう、こんな面白そうな映画があったのか… φ(・ω・`) メモメモ」という感じになり、自分の今後の散財が心配になります(笑)。

 そんな中で私は、まず「おすすめマッチョ映画」というお題で、デンマーク映画”Teddy Bear”、アメリカ映画”Warrior”、スペイン映画”Estigmas”、タイ映画”Bang Rajan”、インド/テルグ映画”Badrinath”の、計5作品について書いたコラムを1本。
 それと「ラブ・ストーリー」ジャンルでイギリスのゲイ映画”Weekend”と、「アニメーション」ジャンルでチェコ映画”Alois Nebel”について、それぞれ推薦記事を1本ずつ書いております。
 よろしかったら是非お買い求めくださいませ。
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『別冊映画秘宝 ロード・オブ・ザ・リング&ホビット 中つ国サーガ読本』にテキスト寄稿しました

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 本日発売のムック『別冊映画秘宝 ロード・オブ・ザ・リング&ホビット 中つ国サーガ読本』に、エッセイを2本書かせていただきました。1本は映画『ロード・オブ・ザ・リング』三部作への思いを、原作小説『指輪物語』の想い出などと絡めて約2,500文字、もう1本は映画『ホビット』三部作の《ドワーフ萌え》を約4,000文字で。

 いや〜、嬉しいお仕事をいただけて、最初はこんな感じだったんですが、


 やがて締め切りが迫ると、こんな状態に(笑)。


 まぁそれでも《ドワーフ萌え》の方は、何とか無事おさまったんですが、思い入れの強い『指輪物語』の方がもう……最初に書いた文章から半分くらい削った(笑)。まぁその大方は、何というかほら、オタクやマニアが好きなモノについて喋ると、過剰なディテール説明やら自分語りが大量に混じってウザくなるとゆー、あのパターンだったので、結果的には削っても全く問題なしでしたが(笑)。

 私の文章は、論とか解説とかではなく、完全にエッセイという感じなので、箸休めにでもお読みいただければ幸いですという感じですが、他の錚々たる方々(添野知生さん、森瀬繚さん、朱鷺田祐介さん、等々)の文章は、内容は濃いわ背景の膨大な資料が伺われるわで、スゴいです。
 かと思えば、キャラクターや世界観をコンパクトかつ的確に解説した、入門向けパートみたいなのも充実しているし、各種キャラ萌えエッセイ&論(柳下毅一郎さんのサム萌えとか、高橋ヨシキさんの大ゴブリン萌えとか)も楽しい。劇場公開版とエクステンデッド・エディションの詳細比較とか、映画と原作の詳細異同解説なんかも、映画誌の別冊ならでは。
 インタビューのラインナップも、ピーター・ジャクソンと荒俣宏さんというのは王道として、『冒険者たち』の斉藤惇夫さんと『指輪物語 エルフ語を読む』および映画6作のエルフ語監修の伊藤盡さんというのが渋い! 余談ですが、荒俣さんのインタビューで、話がギャレス・エドワーズ版『GDZILLA ゴジラ』に飛んだところが、まるで途中から杉作J太郎さんに入れ替わったみたいで可笑しかった(笑)。
 その他、トールキンとその作品世界に関するあれこれとか、ゲームやアニメーションの話とかも、それぞれコンパクトではあるけれどカッチリ押さえられているし、巻末に資料編(【完全版】中つ国の歴史/中つ国小辞典)を配する心配りもにくい。

 というわけで、お好きな方ならマストの一冊。是非お買い求めくださいまし。
 いや〜しかし、こんな文章仕事ができるとは……あぁ嬉しい(笑)。[amazonjs asin=”4800306167″ locale=”JP” title=”別冊映画秘宝 ロード・オブ・ザ・リング&ホビット中つ国サーガ読本 (洋泉社MOOK)”]

“In The Fog (В тумане)” (2012) Sergei Loznitsa

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“In The Fog (В тумане / V tumane)” (2012) Sergei Loznitsa
(イギリス盤DVDで鑑賞→amazon.co.uk

 2012年のドイツ/オランダ/ベラルーシ/ロシア/ラトビア映画。二次大戦中ドイツ占領下のベラルーシで独軍に協力者した裏切り者と、彼を処刑しに来た2人のパルチザンを描いた文芸系ドラマ。
 監督のSergei Loznitsaという人はドキュメンタリー畑だそうで、劇映画はこれが2本目らしい。原作は小説だそうな。

 1942年、ドイツ占領下のベラルーシ。
 独軍およびその手先となっている警察は、対独パルチザンおよびその協力者は厳罰に処すとして、三人の鉄道員を絞首刑にする。しかし共に捕らえられながらも、中年男スセニヤだけは解放される。
 結果スセニヤは周囲から裏切り者の対独協力者と思われ、その処刑に二人のパルチザンが彼の家に向かうのだが、その一人は彼の幼なじみでもあった。スセニヤは「自分は何も裏切り行為は働いていない」と言うが、それでも大人しく連れ出される。
 しかしスセニヤがいざ処刑されんとしたとき、警察の襲撃にあい、幼なじみのパルチザンが深手を負う。果たしてスセニヤは本当に裏切り者なのか、そして他の二人のパルチザンは、同じ時代をどのように生きてきたのか……といった内容。

 物語の舞台はほぼ、この三人が彷徨い歩く林の中に固定されており、その間に三人それぞれの回想が挟まるという作り。テンポは極めてゆったりしており、長回しも多し。
 説明要素も少ないために、見ながら一瞬「はて?」と混乱してしまうことも多かった。しかしそういった混乱も、良く考えれば「あ、なるほど!」と判るようになっているので、表現手法が娯楽映画的ではないというだけで、内容自体が難解というわけではなし。
 テーマもわりと明解で、見ていてあちこち考えさせられる要素も多し。具体的には、積極的にパルチザンに参加した男と、パルチザンに直接関与はしていないものの、板挟みになり自分の生き方を貫こうとした男、そして生き延びるためには何でもする男といった三人を対比させることで、時代の悲劇や人間性を問うという作り。
 個人的に興味深かったのは、戦時下では何でも起こり得るというテーゼに対して、では人間とはそんなにたやすく変わってしまえるものなのかという反問がなされているあたり。単に時代の悲劇として片付けるのではなく、そこから人間性そのものへの問題提起に繋がっていく。

 ドラマ的には、やはりスセニヤのパートが最も興味深く、いろいろ身につまされる感じ。
 以前だったら「日本も昔は、生きて虜囚の辱めを……とか、捕虜になった故に戦後に村八分なんてこともあったよなぁ」と、ある程度の距離感を持って見られたんですが、昨今の、戦時下でもないのに「売国奴」だの「反日」だのといった言葉を頻繁に目にする風潮を見ると、距離感どころか、すぐそこに地続きの同じ世界として、こういった状況があり得るんだという感がありありとして、そこいらへんは見ていてかなり憂鬱な気分に。

 テーマがテーマなので、当然のように帰結もそれなりのヘビーさで、娯楽映画要素も皆無。なので、見る人を選ぶタイプだとは思いますが、映像は実に美麗で、かといって前述したようにアート映画的な難解さはないので、個人的にはけっこう儲け物の感じがした一本でした。
 モチーフに興味あり&非娯楽映画OKの方だったら、一見の価値はあると思います。

ユルマズ・ギュネイ監督の《アナトリアン・ウェスタン》3作

 1985年に日本公開もされた映画『路』(1982)でカンヌのパルム・ドールも受賞した、トルコの伝説的な映画監督ユルマズ・ギュネイ監督/主演による、俗に「アナトリア・ウェスタン」とも呼ばれる初期作品3作の感想。
 鑑賞は全て英語字幕付きトルコ盤DVDにて。

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“Aç Kurtlar” (1969) Yılmaz Güney

 山賊のせいで妻を喪い、官憲に追われながらも山賊狩りをする《雀のメフメット》と呼ばれるアウトローと、雪深い寒村を苦しめている山賊たちや、彼を追う官憲との戦いを描いた、ウェスタン調のドラマ。
 タイトルの意味は「飢えた狼たち」らしい。

 マカロニ・ウェスタンならぬアナトリア・ウェスタンという世評の通り、確かにそういった雰囲気が濃厚。「誰だ!」と問われた主人公が、「俺はアズラエル(死の天使)だ!」と答え、ババッと早撃ちで敵を皆殺しにするとか、モグラのように雪にトンネルを掘って敵を奇襲するとか、そういった感じのケレン味ある描写がそこかしこに。
 それと並行して、凌辱された女性が死を選ばされる不条理への怒りであるとか、アウトローであるヒーローに社会正義を托して、見ているこちらとしては心情的に、体制側が完全に悪として感じられるように描いているあたりは、いかにも反社会的として何度も投獄された、反骨の作家らしいところ。
 表現面は、正直まだかなり荒いという印象。編集がぎこちなく、繋がりがギクシャクしている部分が散見されるし、音楽の使い方とかも、ちょっと笑っちゃうようなところ(例えば、山賊に掠われた娘さんがあわや強姦…というシーンで、大音量でリヒャルト・シュトラウスの『ツァラトゥストラはかく語りき』が鳴り響くとか)があったり。
 とはいえ、モノクロ映像の一面の雪景色の中に、人影がシルエットのように浮かびあがる構図のキレとか、無言の顔のアップによって、情感が言葉より雄弁に伝わってくるカットとか、やはりタダモノではないと感じさせられるシーンも多々あって、荒削りながらも、あちこちキラキラと輝いている感じは受けました。

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『エレジー』(1972)ユルマズ・ギュネイ
“Ağıt” (1972) Yılmaz Güney

 主人公率いる山岳民族出の密輸団が、裏切りや国家憲兵からの追撃や内紛などを経て、一人また一人と滅んでいく様を描いた、アナトリアン・ウェスタンもの。

 ストーリーとしてはシンプルで、いわゆるアウトローの悲劇を描いたもので、作劇的にもあちこち荒さが散見されますが、とにかく映像のパワーがハンパない。
 特にクライマックス、マジモンの巨岩がゴロゴロ崩れ落ちる中での銃撃戦は、その映画製作に賭ける本気度に、狂気すら感じられるほど。もう、このクライマックスだけでも一見の価値あり。なんかすげぇもの見ちゃった感。
 他にも、麻酔なしで手術を受ける主人公の姿と、激しい落石と、生まれたばかりの鳥の雛が大口を開けて騒いでいる映像のモンタージュとか、そんな激しいシーンの合間合間に見られる、静謐で叙情的な描写とか、暗い室内に潜む敵を、鏡の反射光で照らしながら探す場面の緊張感とか、あちこち映像的な見応えがバッチリです。

 クライマックスのGIF動画。音がないので判りにくいかもだけど、こんな感じで延々と続くので、その迫力に圧倒されます。
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“Seyyit Han” (1968) Yılmaz Güney

 主人公セイットは7年振りに故郷の村へ戻ってくる。村には彼と将来を約束した娘ケジェがいたが、セイットは既に死んだという噂があったため、ケジェの兄は妹を村の有力者に嫁がせることを決めており、セイットが帰還したのは、まさにその結婚式の日だった。
 セイットの帰還を聞き、ケジェは彼の元に走ることを望むが、一族の名誉に傷が付き兄の身にも危険が及ぶことを思い、その本心とは裏腹にセイットに別れを告げる。セイットもまた、自分の愛した全ては喪われ、過去のものになってしまったのだと諦め、村を去ろうとする。
 しかしケジェの結婚相手の有力者は、新婦が未だセイットのことを愛していることを知り、妻の裏切りへの制裁として、セイット自身の手でケジェを殺させ、それをケジェの兄に教えてセイットを殺させるという奸計を企み……といった内容。

 前の”Aç Kurtlar”と同様、ふらりと酒場に入ってくる腕の立つ流れ者という導入、巨悪や社会的因習に蹂躙された主人公の復讐劇というプロット、数で勝る敵に主人公が単身殴り込みに行くクライマックス……と、ストーリーの骨子自体はマカロニ・ウェスタンや東映ヤクザ映画風です。
 しかし最大の見所は、途中延々とセリフなしで描かれる、結婚式のシーン。
 賑々しい婚礼の音楽、打ち鳴らされる空砲、婚礼の行列を遠くから眺める主人公、鳥や蛙がつがいになっているインサートカット、ヴェール越しの花嫁の涙、葦笛を作り奏でる主人公……といった数々が、何とも素晴らしい効果。この一連のシークエンスの素晴らしさは、後にパルム・ドールを受賞する監督の面目躍如といった感じ。
 アナトリア地方の風俗をふんだんに取り入れた(のであろう)面白さや、水平に拡がりのある風景を生かした構図の数々など、この場面だけでも一見の価値はあり。
 反面、ガンアクションなどの娯楽映画的要素は、一面の雪原での撃ち合いをケレン味たっぷりに見せる”Aç Kurtlar”や、岩石がゴロゴロ崩れ落ちる中での銃撃戦がド迫力だった『エレジー (Ağıt)』と比べると、さほどこれといった見せ所はない感じ。
 とはいえ、いわば名誉殺人的な思想を背景とした、敵が主人公自らの手で彼の恋人を殺させようと企み、それがそのままクライマックスへと続くあたりのエモーショナルな盛り上がりは上々。

 7年前に主人公が何故村を出たか〜帰還した恋人のもとに向かうヒロインという場面のクリップ。さほど魅力的なシークエンスではありませんが、中間部の長回しは、前述した水平構図云々の雰囲気が掴めるかと。

“3” (2010) トム・ティクヴァ

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“3” (2010) Tom Tykwer
(アメリカ盤DVDで鑑賞→amazon.com

 2010年のドイツ映画。ご贔屓トム・ティクヴァ監督。男女のカップルが一人の男に同時に惹かれてしまうというロマコメ的な状況を、一癖も二癖もあるフリーダムなタッチで描いた内容で、ゲイセックスシーンもあり。
 日本では2014年の関西クィア映画祭、他で上映。

 ハンナとシモンは、長く付き合い、結婚こそしていないものの一緒に暮らしているカップルだが、既にセックスレス状態になっている。
 そのせいかTVキャスターのハンナは、仕事中でも何かと物思いに耽ったりカリカリしたり。そんなある日、シモンの母親が膵臓癌で亡くなり、シモンにも睾丸癌が見つかる。
 片方の睾丸を摘出する手術の日、シモンはハンナに電話をかけるが、その電話は繋がらない。その時ハンナは、仕事で出会った男性アダムと偶然の再々会を果たしており、躊躇いながらも惹かれるままにアダムと寝ていた。一方でシモンは、手術が無事に終わった後、昔の情事の相手だった女性と偶然再会し、実は当時彼女は彼の子を妊娠し、中絶していたことを知る。
 退院後にプールに行ったシモンは、そこで泳いでいたアダムと出会う。アダムに睾丸癌の手術の話をしたシモンは、「じゃあ機能を確かめてみよう」と、アダムの手コキでいかされてしまう。
 ハンナとシモンは、そろそろ潮時だから結婚しようかという話になるが、実は二人とも互いに与り知らぬところで、それぞれアダムを追い求めて情交を重ねており……といった内容。

 まぁとにかく「ティクヴァ作品だわ〜」という感じで、やっぱこの監督は好き だ。
 運命論的な展開、社会常識やモラルを軽々と超えるハッピネス、計算された色彩設計や堅牢な構図の美麗画面、ちょっとスノッブな感じ……と、映画のそこここがとってもティクヴァ。
 ストーリー展開は、普通の感覚から言ったら《偶然》が多すぎるのだが、そこを様々なディテールの積み重ねで《必然》に見せていくあたりは、やはり上手いし引き込まれる。そんなところは、同じくティクヴァ作品の『プリンセス・アンド・ウォリアー』を思い出させるし、運命論的なところは『ウィンタースリーパー』な感じも。
 英語字幕での鑑賞だったので(日本公開されるかも……と様子見してたんだけど、待てど暮らせど気配がないので、諦めて米盤DVDを購入)、ペダンチックなセリフの数々を拾い損ねてしまったのは残念。きちんと理解できる日本語字幕で見れば、もっと滋味が増しそうな予感。

 ロマコメ的シチュエーションではあるけれど、愛とセックスを完全に等価に扱っている(ひょっとしたらセックスの方が比重は上かも?)のも最高。登場人物がことごとく、セックスに対して実にフリーダム。
 色々な要素がテンコモリで、内省的になったりアーティスティックになったりコメディになったりと、異なるテンポや雰囲気が混在しているため、途中はちょっと軸足をどこに置いて見れば良いのか判らない感もありましたが、ラストのハッピネスと洒落っ気で綺麗に着地、全体の後味は上々。
 映像的にも、詩的で静謐だったり、かと思いきや目まぐるしいマルチ画面になったり、まぁ綺麗とウットリさせられかと思ったら、睾丸摘出手術をモロに見せられてオエップとなったり(笑)。
 そして、ゲイセックスシーン。これはけっこうエロかった。
 見せ方は別にさほど過激ではないんですが、何しろ上手い監督と一流のカメラで、手コキで射精に至る表情のクローズアップとか、腹に出された精液とか、今どういう状態なのかが判るような初アナル場面(カリが通過する瞬間はキツいとか、そーゆー感じの)等が描かれるので。

 という感じで、時にシリアス、時にコメディ、時にお伽噺な、多彩な魅力を味わえる一本。そしてとってもティクヴァ。満足!
 ティクヴァ作品の中では、必ずしも完成度が高い方ではない気はしますが(私がディテールを拾いきれなかっただけかも知れないけど)、とにかく見ていて飽きさせないし、モノガミー至上な方とか変なモラリストでなければ、鑑賞後はハッピーな気分になれると思います。

「映画秘宝」3月号、2014年度ベスト&トホホ10に参加しています

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 今年も「映画秘宝」ベスト&トホホ10に参加させていただきました。2014年に見た映画の中から、ベスト10、ベスト・ガイ、ベスト・ガール、ベスト・シーン、映画トホホ3を、それぞれコメント付きで選ばせていただいております。もう1つのアレは、今年はスルー。
 何をどういう理由で選んだかは、掲載誌をご覧いただくとして、ちょうど数日前に飛び込んできた某ニュースで、「え、なんで……だったらもっと上位にすれば良かった!」なとどプチ後悔した拙10位(まぁ判官贔屓みたいな心理です)が、総合で6位にランクインしていたのは嬉しい限り。

 因みに、最後まで悩んで最終的に泣く泣く落としたのは、ここいらへん。
牢獄処刑人
ハワイ
The Painting (Le Tableau)
Highway
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In the Name Of (W imię…)

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 オマケ。前にツイートした2014年に見たゲイ映画ベスト10。
1.湖の見知らぬ男
2.チョコレートドーナツ
3.ハワイ
4.In the Name Of (W imię…)
5.Pit Stop
6.フリーフォール
7.Tha Last Match (La partida)
8.Lilting(『追憶と、踊りながら』の邦題で2015年5月〜日本公開決定)
9.Out Loud
10.My Last Round (Mi Último Round)

トークショー(1/18)出演のお知らせ〜今泉浩一監督作品アンコール上映『すべすべの秘法』+『家族コンプリート』

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 次の日曜日、1月18日に、渋谷のアップリンクでトークショーに出演します。
 イベントは、今泉浩一監督の映画『すべすべの秘法』+『家族コンプリート』のアンコール上映(1月16日〜20日)で、私は18日(日)の『家族コンプリート』上映(15:20〜)の終了後に、今泉監督と、映画の撮影を担当した田口弘樹さんと一緒に、三人であれこれ喋らせていただく予定。
 ただいま前売り券発売中。あまり広くない会場なので、今のうちに予約が吉かもしれません。チケットはこちら(アップリンクのサイト)で予約購入できます。
 お時間のある方は、是非おいで下さいませ。

 今泉監督とワタクシ。
withImaizumi

 以下、イベントと映画の解説です。
 エロスからキンキーからバイオレンスまで飛び出す、他に類を見ない怪作『家族コンプリート』、それとは対照的に、日本のゲイのリアルをさらりと描いて愛おしい『すべすべの秘法』、どちらもこの機会に是非お見逃しなく!

2014年2月に渋谷アップリンクにて日本初公開された今泉浩一監督長編作品『すべすべの秘法』に前作『家族コンプリート』を加えたアンコール上映。今泉浩一は1990年よりピンク映画俳優としてキャリアをスタートさせ、並行して1999年よりインディペンデントで一貫してゲイ映画を撮り続けている。セクシュアル・マイノリティーの映像作家が極端に少ない日本において、かつドラマ性のある映像作品を継続的に制作している作家、という点で非常に特異な存在である。ごく小規模な製作チームながらその作品は国内よりもむしろ海外で高く評価され、過去の作品はベルリン国際映画祭を初めとする数多くの映画祭に招待され、各国で上映を重ねてきた。国内での上映機会が非常に限られる今泉作品の、1年ぶりの再上映企画となる。

※All movies are with English subtitles.(全作品英語字幕付、DVでの上映)
※18歳未満の方はご覧いただけません

【上映スケジュール】

2015年1月16日(金)~20日(火)

●1月16日(金)
21:00~『すべすべの秘法』

●1月17日(土)
15:30~『すべすべの秘法』(上映後トークショー:マーガレット、今泉浩一)
21:00~『家族コンプリート』

●1月18日(日)
15:30~『家族コンプリート』(上映後トークショー:田亀源五郎、田口弘樹、今泉浩一)
21:00~『すべすべの秘法』

●1月19日(月)21:00~『すべすべの秘法』

●1月20日(火)21:00~『すべすべの秘法』

【上映作品】

『すべすべの秘法』The Secret to My Silky Skin
(2013年/カラー/81分/HDV/ステレオ/With English Subtitles)
※18歳未満の方はご覧いただけません

両親と京都に暮らすリョータは東京での短期研修が決まり、「東京のヤリ友」であるイッセイの家に泊めてもらう事になった。朝はそれぞれが仕事に出かけて夜は一緒に過ごして寝る、ただそれだけになるはずの5日間。家に到着した最初の夜、イッセイはごく自然にリョータとセックスしようとするのだが、リョータは素直に応じることができない。実は彼には東京に来る前から一つ、気がかりな事があったのだった…。今泉浩一の新作長編「すべすべの秘法」はゲイ漫画家、たかさきけいいちによる短編漫画を原作とした、6本目にして自身初となる原作もの。取り立てて派手な事件も事故も起こらない「きわめてありふれた」ゲイの日常を描く、これまでにない味わいを持った作品となっている。またメインキャストに職業俳優ではないノンプロを起用する特徴的なスタイルは健在で、本作でも随所で彼らの瑞々しい姿を捉えている。本作は2013年10月に開催されたベルリンポルノ映画祭での上映を前提に、同映画祭ディレクターのユルゲン・ブリューニンクからの提案を受け制作され、日本では2014年2月に渋谷アップリンクにて日本初公開された。

出演:馬嶋亮太、本名一成、きたがわひろ、藤丸ジン太、ほたる、伊藤清美、赤岩保元
原作:たかさきけいいち(「ウラゲキ vol.4/古川書房」 2005掲載)
監督・脚本・編集:今泉浩一
撮影・スチール写真:田口弘樹
音楽・音響:PEixe-elétrico
英語字幕:川口隆夫 
字幕協力:Jeremy Harley
タイトル題字:赤岩保元
制作:岩佐浩樹
製作:habakari-cinema+records

『家族コンプリート』The Family Complete
(2010年/カラー/106分/DV/ステレオ/With English Subtitles)
※18歳未満の方はご覧いただけません

一軒の古い日本家屋を舞台に繰り広げられる、謎の新型ウイルスに冒されたある三世代家族を巡る悲喜劇。ミスコミュニケーションをテーマに、ゲイの恋愛とセックスを描く日本製激愛男色家族映画/R-18指定ジャパネスクハードコアホモセクシュアルホームドラマ。2010年3月、第34回香港国際映画祭で世界初公開されてから各国の国際映画祭を巡回し、渋谷アップリンクでは今回で通算4度目の上映となる。

出演:神羽亮祐、ほたる、藤丸ジン太、村上ひろし、川合亮、松之木天辺、大木裕之、伊藤清美、今泉浩一
監督・脚本・編集:今泉浩一
撮影・スチール写真:田口弘樹
音楽・音響:PEixe-elétrico
英語字幕:川口隆夫 
字幕協力:Jonathan M Hall
タイトル題字・灯り制作:赤岩保元
制作:岩佐浩樹
製作:habakari-cinema+records

世界の史劇映画傑作シリーズ DVD-BOX Vol.1

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 先日発売された『世界の史劇映画傑作シリーズ DVD-BOX Vol.1』の収録作を全て見終わったので、個々の感想をまとめてアップ。

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『キング・オブ・キングス』(1927)セシル・B・デミル
“The King of Kings” (1927) Cecil B. DeMille

 キリストの後半生を描いた、セシル・B・デミル監督の1927年サイレント版。
 いちおう福音書に則って描いた内容ではあるものの、独自アレンジあり、スペクタクル場面もバッチリ、通俗娯楽性もガッツリ……と、いかにもデミル作品という感じで楽しい大作。

 もうのっけから、マグダラのマリアを高級娼婦という設定にして、豪奢で退廃的な宴会で肌も露わな衣装で豹と戯れたりしているところに、最近自分をお見限りのイスカリオテのユダが、イエスとかいう乞食宗教者の元に出入りしていると聞いてオカンムリになるという、独自すぎる導入部。
 そしてマグダラのマリアは、イエスが盲人を治癒しているという話に「それよりアタシの魅力で目が見えなくなった男の方が多いわ!」なんてビッチな台詞をはき、ヌビア王にプレゼントされたシマウマの馬車(!)で、ユダを取り戻すためにイエスの元に乗り込むというフリーダムさ。
 でもっていざイエスと対峙したマグダラのマリアは、そこに何かを感じて怯むんですが、そこでイエスが「汝は清められた」と言うと、半透明の不気味な人間の形をした《七つの大罪》が、オカルト映画の除霊よろしくマグダラのマリアから離れていく……って、これもう面白すぎでしょう(笑)。

 まぁ残念ながら、ここまでフリーダム展開なのはこの導入部だけで、後はだいたい福音書のエピソードの抜粋になるんですが、それでも福音記者マルコをイエスに足を治癒してもらった少年キャラにして付き従わせるとか、映像という視覚言語を駆使してエピソードに判りやすさを追加するとか、色々と面白い。
 また、映画的な娯楽性を踏まえてエピソードをツギハギしたり入れ替えたりしていて、例えば、イエスが神殿から商人を追い出したところに、ユダの先導によるエルサレム入城時のホザンナを持って来て、それと平行してサタンによる荒野の誘惑が描かれたりするので、そういった工夫も面白い。
 映像という視覚言語による表現という面では、最初しばらくイエスの顔は出さないでおいて、盲目の少女が奇跡によって癒され、初めて光を見る少女一人称カメラ視点で、初めてイエスの顔が画面上に登場するなんて演出は、「これは上手い!」と感心させられたり。
 あと、イエスに被せる茨冠の茨をどこから持って来たのかとか、ユダの首つり縄がどこから持って来たのかとか、そういった具合に、良く知られた図象やエピソードに、ちょっとした理由付けや前振りが加わってるあたりも面白い。とにかく「判りやすく、面白く、無理のなく」という配慮がいっぱい。
 配慮というと、反ユダヤ色が出ないように気をつけたのか、大祭司カイアファを物欲にとらわれた悪党という設定にして、イエスの逮捕から処刑に至る責任を、その悪党一味のみに負わせ、ユダヤ教やユダヤ人の総意とは全く無縁のものとして描いているあたりも興味深かった。
 スペクタクル性では、エルサレム神殿の門のデカさとか大勢のモブとか、要所要所でスケール感タップリの見せ場が。そして磔刑の後の天変地異が、これまたハンパないディザスター描写で、いやぁ受難劇の天変地異でここまで派手なのは初めて見たかも。そのまま世界が滅びそうな勢い。
 と言う具合に、色々と面白い要素が盛り沢山。これ系の映画にありがちな退屈さは、独自のアレンジで巧みに回避して、最後にはなんか力業で感動っぽいところに持っていく……と、ホント「デミル映画!」って感じで面白かったです。

 日本盤DVDは、画質は佳良だしピアノ伴奏も画面に合っていて、これだけを独立して見る分には何の文句もないんですが、米クライテリオン盤DVDだと、日本盤と同じ後にリカットされた112分版と一緒に、オリジナルの155分版の両方をレストアしたものが収録されているので、それと比べると残念。
 あと、米クライテリオン盤では、オリジナルの二色テクニカラーになる部分が、そのまま収録されているんですが、日本盤は全編モノクロなので、これもやっぱり、比較してしまうと、ちと残念。
 ……って、今、米盤DVDのスペックを確認しに米アマゾンの商品ページを確認したら、ちゃんと「貴方このDVDを2004年×月×日に買ってますよ!」という注意書きが出たので、ビックリしたw というわけで、10年ぶりの鑑賞だったみたいです。時の流れが早い… …。

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『ノアの箱船』(1928)マイケル・カーティス
“Noah’s Ark” (1928) Michael Curtiz

 ノアの方舟の物語を描いたアメリカ映画。第一次大戦勃発時に欧州にいたアメリカ青年とドイツ娘のすれ違いラブロマンスに、劇中の挿話としてノアの方舟のエピソードがスペクタクル史劇的に描かれるという、パートトーキー作品。
 面白かった。まず一次大戦パートの方。オリエント急行に主要登場人物が乗り合わせ、それが事故に遭うと同時に戦争勃発という導入から快調。他にもあれこれ見せ場を挟みながら、戦場を舞台にしたすれ違いロマンス劇が展開。キャラも良く立っていて、クリシェながらも面白く見られる。
 そして、一次大戦パートと同じ俳優が演じるノアの方舟パート。フルスケールのセットとすごいモブには圧倒されるし、ミニチュア特撮も楽しい。ノアの方舟の話に、サムソンとデリラや十戒の名場面も混ぜちゃいましたみたいな展開には、ちょっとビックリしちゃいましたが、そのぶん娯楽性もタップリ。

 2つのパートの接続には、正直かなり無理があるんだけれど、それを通じて言わんとしたかったことは明解。そして現代の視点で見ると、第一次大戦を指して「このような戦争は二度と繰り返すまい」というメッセージが、その10年後には早くも破られてしまったという事実にも考えさせられます。
 ヒロイン役のドロレス・コステロという女優さんが、メリル・ストリープが美人になったみたいな感じで、とっても魅力的だなぁ……と思って見ていたんだけど、この方、ドリュー・バリモアのお祖母ちゃんなのね。びっくり。
 スペクタクル好き&特撮好きだったら、古代パートだけでも見る価値大。いや〜満足、満足。

『ノアの箱船』再公開時の予告編

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『暴君ネロ』(1932)セシル・B・デミル監督
“The Sign of the Cross” (1932) Cecil B. DeMille

 タイトルバックで早くもローマが炎上していてビックリしたのだが(笑)、原題は「十字架のしるし」で、別にネロを描いた話ではなく、ネロ治世下のキリスト教徒迫害を描いた、『クォ・ヴァディス』みたいな話。
 というわけで、メインとなるのは美しいキリスト教徒の娘と、彼女に恋をしてしまったローマ軍人(しかも名前はマーカス)の話で、それをネロの后であるポッパエアが嫉妬し、クライマックスは闘技場…って、もうまんまクォ・ヴァディス。でもって最後だけ『聖衣』みたいになる話でした。
 そういうわけで、内容的にはクォ・ヴァディスのバッタもんという感が否めないし、しかもペトロニウスがいないクォ・ヴァディスなもんだから、まぁ何とも薄っぺらいこと夥しいんですが、それを抜きにすれば、いかにもデミル作品らしい派手な見所が横溢した、楽しい一本。

 美術や衣装はゴージャス感たっぷり、巨大セットやモブはスケール感ばっちり、判りやすくエモーショナルな表現もあれば、エログロ見せ場もバッチリ。良くも悪くも通俗的で扇情的な見せ場の積み重ねで、観客をグイグイ引っぱっていく。
 特にクライマックスで延々と続く闘技場の見せ場は、ここはほとほと感心。セットやモブのスケール、闘技場で繰り広げられる見せ物的な見せ場の数々はもとより、そこに移動撮影やカットバックで集う観客の小芝居も見せ、ここいらへんは本当に上手いな〜と思う。
 で、その見せ物の方も、剣闘士なんてほんの前座。罪人の処刑で象に踏みつぶされるわ、全裸に花綱という姿で縛られた女性に複数のワニが忍び寄るわ、ピグミーという設定の黒塗りの小人軍団 VS アマゾネス軍団の戦いはあるわ……これでもかこれでもかの釣瓶打ちに、もうホント感心。

 ヒーローとヒロインに人物造形的な魅力がないのが難点ですが、そのぶんクローデット・コルベール演じるポッパエアと、チャールズ・ロートンが付け鼻で演じるネロの面白さが、出番はさほど多くないにも関わらず、ぐっと引き立っています。
 コルベールはミルク風呂入浴というお色気見せ場もあり。ポッパエア(ポッペア)のミルク風呂というと、私はどうしても沼正三の『ある夢想家の手帖より』を連想してしまうんですが、流石にあんなマゾ展開はないにせよ、猫がピチャピチャやってたりして、しかもだんだん猫の数が増えたりするのが楽しい。
 というわけで、内容自体は薄っぺらいですが、スペクタキュラーな見せ物としては、それを補って余りある面白さ。ラストはいかにも強引ですが、それでもその前段では、ちょっとグッとくる場面なんかもあり。史劇好きなら見て損はなし。

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『ファビオラ』(1949)アレッサンドロ・ブラゼッティ
“Fabiola” (1949) Alessandro Blasetti

 1949年のイタリア/フランス映画。ディオクレティアヌス帝時代のローマで、皇帝をも凌ぐ財力を持つ家の娘ファビオラと、ガリアから来た剣闘士レアールの恋に、やがて始まるキリスト教大弾圧を絡めて描いた大作史劇。
 お見事。ヒロインとヒーローが共にキリスト者として成長していくというプロットと、キリスト教徒の増加に脅威を感じている支配層の巡らす陰謀、分裂したローマ帝国の混乱、更には聖セバスティアヌスの殉教など、実に盛り沢山な内容。
 その分、正直あちこち描き切れていない感があったり、判りにくい部分なんかもあるんですが、そこは上手いこと殺人を巡るミステリー的な興味や、個々のキャラクターが良く立った群像劇的な魅力、そして画面のスケール感やスペクタクル性で上手い具合に牽引してくれるので、面白さはバッチリ。

 画面のスケール感やゴージャス感は、これは本当に大したもので、近景だけを切り取ったり遠景を書き割り的に配置するのではなく、手前から奥まで《史劇らしい風景》が続いているのを見せるシーンはわるわ、セットはデカくてゴージャスだわ、モブはすごいわ……と、文句なし。
 スペクタクル性の方は、またもや闘技場でのキリスト教徒大虐殺大会を、仕掛けも人員もたっぷり使って、これでもか、これでもかと見せる系。『暴君ネロ』と比べると、見せ物要素は控えめですが、それでもやっぱりスゴい見せ場。
 あと、ヒーローのレアール(アンリ・ヴィダル)とセバスチャンことセバスティアヌス(後で調べたらマッシモ・ジロッティだったのね……気付かなかった)が、共に時代を考えると良い肉体で、しかも胸毛フサフサなのが、個人的には嬉しかったり(笑)。

 テーマ的には宗教色が色濃いですが(調べたら、原作は19世紀中頃にローマ・カトリックの枢機卿によって書かれた『ファビオラ 或いはカタコンベの教会』という歴史小説だそうな)、キャラクター・ドラマ自体が面白いので、さほど押しつけがましさや強引さが感じられないのもマル。
 というわけで、史劇好きなら一見の価値ありの一本。因みに相棒は、私以上に絶賛。タイトル・ロールのミシェル・モルガンも綺麗でした。

マッシモ・ジロッティ演じる『ファビオラ』の聖セバスティアヌス
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『豪族の砦』(1953)ハロルド・フレンチ
“Rob Roy: The Highland Rogue” (1953) Harold French

 1953年のイギリス/アメリカ映画。スコットランドの義賊ロブ・ロイを、気軽に見られるアクション・アドベンチャー風に描いたものだが、製作がディズニーということもあり、雰囲気はファミリー映画や児童向け翻案小説のような感じ。
 キャラクターやストーリーや背景事情は、極めて単純化されており、史劇的な味わいは希薄。アクション・アドベンチャーとしても、ファミリー映画風味や主演男優の地味さもあって薄味な感じ。ただし、全体的に手堅く纏まってはいるし、尺が短くテンポも良いので、そこそこ楽しめる内容。
 というわけで、これはジュブナイルだと思って見るのが吉。ヒロイン役(ロブ・ロイの新妻)の女優さんが、『メリー・ポピンズ』のバンクス家のお母さん(グリニス・ジョンズ)の若かりし頃だった。まだ娘々した雰囲気だけど、あの特徴的なペチャッとした声は変わらず。

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『悲恋の王女エリザベス』(1953)ジョージ・シドニー
“Young Bess” (1953) George Sidney

 アメリカ映画。戴冠前の若きエリザベス1世の要素を、ドロドロ要素は控えめに、少女の成長&トマス・シーモアへの恋情などを軸に描いたもの。
 ロマンティック史劇として手堅い出来映え。
 エリザベス(ヤング・ベス)にジーン・シモンズ、キャサリン・パーにデボラ・カー、ヘンリー8世にチャールズ・ロートン……と、いかにも適材適所な感じの配役が効果大で、例え予定調和的ではあっても、それぞれがしっかり魅力的な演技を見せてくれるのが良かった。
 基本的に女性映画のような作りなので、スペクタクル的な見所はないけれど、セットや衣装のゴージャス感はバッチリ。色彩もなかなか。
 前半部ではユーモラスな描写もちょくちょく入り、けっこう笑ってしまった。《はい再婚→はい斬首》というブラックな笑いが、特にツボ(笑)。
 善悪ハッキリ&物事を単純化というパターンながら、少女の成長というジュニア小説的な軸がしっかりしているので破綻もなく、映像的なクオリティも高いので楽しめる一本。

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『邪悪なイゼベル』(1953)レジナルド・ル・ボーグ
Sins of Jezebel (1953) Reginald Le Borg

 旧約聖書列王記を元にした史劇……なのだが……安っ!(笑)
 セットも衣装も小道具も何もかもが安っぽくて、きっとすごく低予算。もう宮殿の石壁とか、模造紙にマジックでレンガ状の線を引いただけみたいに見えるくらい(笑)。
 当然スケール感も滋味も皆無。主演ポーレット・ゴダードも、それを保たせることはできず。
 ただ、時系列を短縮してロマンス要素を入れることで、イゼベルへの同情的な視点も加えているアレンジは、ちょっと興味深かった。あと、物語の枠外から見ると、宗教に基づく不寛容について考えさせられるあたりは、旧約聖書ものを見ていて良く感じるパターン。
 しかし、低予算史劇はそれなりに見ているけれど、ボディービルダー主演のイタリア製B級史劇なら、まぁ話の内容自体が高級ではないので、そこそこ楽しく見られるんですが、こういう、内容は本格系なのに画面が度を超して安いというのは、見ていてかなり辛いものがあるなぁ……と新発見です(笑)。

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『ポンペイ最後の日』(1950)マルセル・レルビエ、パオロ・モッファ
“Gli ultimi giorni di Pompei” (1950) Marcel L’Herbier, Paolo Moffa

 1950年のフランス/イタリア映画。同じタイトルでも内容は全くオリジナルだった35年のアメリカ版とは違お、こちらは一応リットン卿の同名小説がベース。
 ストーリーとしてはロマンス+陰謀+天災+宗教というパターンで、ロマンス比重が高め。陰謀の方をあまり上手く盛り上げてくれないので、男女の恋愛パート(五角関係くらい)がやけに目立つ感じながら、セットやモブのスケール感やゴージャス感はなかなかのもの。
 構成要素が複雑なわりには尺が比較的コンパクトなので、テンポは早めながらあちこち描き足りない感もあり、エモーショナルな面はあんまり盛り上がらない感はあるけれど、ラストの火山爆発スペクタクルはかなりの迫力と見応え。

 主演のジョルジュ・マルシャルは、もうちょっと後の『ロード島の要塞』くらいしか見たことなかったんだけど、若い頃はギリシャ彫刻風のハンサムだったのね。ちょっとジャン・マレーを思い出させる感じ。
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「映画秘宝」2月号に『ホビット 決戦のゆくえ』のレビュー書きました

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 本日発売の雑誌「映画秘宝」2015年2月号の、特集「『ホビット 決戦のゆくえ』徹底大総括」に、恒例(汗)の作品レビュー(という名前の感想文)を書かせていただきました。これで、『ホビット 思いがけない冒険』『ホビット 竜に奪われた王国』、そしてこの『ホビット 決戦のゆくえ』、三部作それぞれのレビューを書かせていただいたことになり、ありがたい限りであります。
 いつものように特集内容自体も濃ゆい内容。映画と原作(『ホビットの冒険』のみならず、『指輪物語』追補編や『シルマリルの物語』『終わらざりし物語』”The History of Middle-Earth”なども含めた大系全体)それぞれを踏まえながら、読み応えのある記事がずらり。中でも特に、添野知生さんの第一次世界大戦をキーにした論考は、読んでいて目からウロコ。あと、戦術史がベースの宮永忠将さんのコラムも面白かった。

 というわけで、映画も私の感想もこれで最後になりますので、皆様ぜひご鑑賞&お買い上げくださいまし。
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“Jack and the Cuckoo-Clock Heart” (2013) Mathias Malzieu & Stéphane Berla

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“Jack and the Cuckoo-Clock Heart (Jack et la mécanique du coeur)” (2013) Mathias Malzieu & Stéphane Berla
(アメリカ盤Blu-rayで鑑賞→amazon.com

 2013年のフランス/ベルギー製長編アニメーション。心臓の代わりにカッコー時計が埋め込まれた青年の物語で、フランスのバンドDionysosのコンセプトアルバム/小説の映画化。
 フランス語原題は”Jack et la mécanique du coeur”。

 19世紀末のエディンバラ。史上最も寒い日に生まれた赤ん坊ジャックは心臓が凍り付いており、魔女マデラインは彼を救うために、心臓の代わりにカッコー時計を埋め込む。
 こうして命を救われたジャックは、そのままマデラインに育てられる。ジャックは時計のネジを巻きながら、すくすくと成長するが、他に守らなければならない3つのことがあった。それは、時計の針に触らないこと、怒りの感情を抑えること、そして決して誰も愛さないことだった。これらを守らなければ、カッコー時計は狂い、ジャックは死んでしまう。
 しかしジャックは、初めて街に出たときに、手回しオルガンを演奏しながら歌っている少女に恋をしてしまう。時計は狂い、ジャックはすんでのところでマデラインに救われるが、少女の服が学校の制服だと知り、自分も学校へ行きたいと、マデラインに頼む。
 学校で、その少女の名前がミス・アカシアだと判るが、彼女は既にエジンバラを離れた後だった。そしてジャックは胸のカッコー時計のせいで、陰険な教師を筆頭に皆からいじめられ、やがてそれが原因で不幸な事故が起きてしまう。
 マデラインの手で警察から逃れたジャックは、汽車で知り合った不思議な男ジョルジュ・メリエスと共に、ミス・アカシアを探してヨーロッパを縦断し、アンダルシアにある《驚異の遊園地》へ赴くのだが……といった内容。

 なかなかの見応え。
 特異な設定を活かした恋愛奇譚を、ジョー・マグナイニ(ジョゼフ・ムニャイニ)、エドワード・ゴーリー、ティム・バートンあたりと通じる感覚のキャラ&美術と、美麗な3DCGアニメーションで見せる、ちょっと大人向けのファンタジー。ラストの切なさが特に印象的。
 美術は非リアル系ですが、演出やカメラワークなど映画としての見せ方自体は、全般的に実写風。ハリウッド製のメジャーな3DCGと、同じような系統です。
 ただその合間合間に、舞台劇風だとか切り絵アニメーション風だとかいった、本編とはテイストを変えたアートアニメーション寄りの表現手法による見せ場が挟まったりして、個人的にはそっちの方が魅力的に感じられました。
 ストーリー自体は、完全に大人もしくはヤングアダルト向けという感じで、恋愛のロマンティシズムや童話的なファンタジックさを湛えながらも、世界を捉える視点自体はシビア。予定調和的な甘さがなく、また表現的にも、子供向けのマスコットキャラを出すとかいったクリシェに捕らわれていないので、そこいらへんは何というか《ヨーロッパ的》な感じで、かなり好みのタイプ。

 音楽のコンセプトアルバムが元ということもあり、挿入歌やミュージカル風場面も多し。予告編から想像していたよりは、わりとロック/ポップス寄りの音楽で、そこは正直なところ、私の好みとはちょっと合わず。もうちょいアヴァンポップっぽい感じを期待していたので。
 そのバンドのVo.で小説版の作者でもある人が、この映画でも共同監督/主演声優/音楽(バンド名義)を兼任しており、なかなかのマルチタレントぶり。
 反面、ちょっとワンマン的に閉じている感もあり、イマジネーションの飛躍度という点では、まぁそこそこという感じもあり。というのも、もちろんあちこち面白いイメージは盛り沢山なんですが、でもどこか既視感もあるという感じなので、独創性という点では少し物足りなさがあるので。
 ただ、前述した切ないラストシーンの、その詩的なイメージは素晴らしいの一言。ストーリーのエモーショナルな展開とも相まって、かなりグッときました。

 ともあれ、ユニークな発想による波瀾万丈のストーリーを、アーティスティックな美麗さと娯楽映画的なダイナミズムの両方で描き、ラストは綺麗で切なくて詩的でウルウル。
 お楽しみ所はタップリな一本です。